電車の運転

最近健康のために毎日夕方、近所の太田川放水路河川敷を散歩している。もう2週間以上になるだろうか。結構続いている。最初は盆過ぎで涼しくなってきた頃だったので気持ち良かったが、最近また暑くなってきた。でも川沿いはやっぱり風が吹き抜けるし、そういう風はやっぱり秋のそれで気持ちがいい。
三滝橋そばの車道から河川敷に降りて南に進み、広島高速4号線西風新都線)の高架橋のあたりまで行って戻ってくるのだが、途中に可部線山陽本線それぞれの鉄橋がある。夕方はラッシュ時なので電車の往来が多く、夕日と河川敷の景色とあいまってとても風情がある。
ところで鉄橋上では電車の通過音が陸上より大きい。これは鉄橋上にはバラストを敷くことができないため。また「ガタンガタン」という電車独特の音はレールの継ぎ目を通過するため。というようなことが下の本を読んでわかった。

電車の運転―運転士が語る鉄道のしくみ (中公新書)

電車の運転―運転士が語る鉄道のしくみ (中公新書)

だいぶ前から電車ブームだし、最近は電車に乗る機会も多いため、とりあえず基礎知識くらいは、ということで。著者は旧国鉄、しかも蒸気機関車時代からの乗務員(いまは引退)。特記すべきはその文体で、よく言えば質実剛健。伝えるべきことを最小限の言葉で書いていく、非常にシンプルな文章。電車の構造、動力の仕組み、電力設備などの説明が広く浅くなされているのだが、いろいろなレビューを見ると「わかりにくい」という感想が見られる。実際、直流と交流の違いもよくわからない私には、何度読んでも理解できない部分がいくつかあった。しかしそうした電気、建築といった工学的知識まで説明することは求められない。わからないところは軽く読み飛ばせばよい。
それだけでなく国鉄あるいはJRという巨大組織に対する、あるいは鉄道という輸送手段の明るい未来に対する、一乗務員の視点からの苦言・提言もなされている。
文章というのは本当に人柄を表わす。本書では人生に対する著者の真摯さ、また鉄道に対する愛が満ち溢れている。それが読者のテンションを本当に上げる。人文系では教養と気の利いた表現で武装した文章をよく見るし、それはそれで悪いとは思わない。しかし私は、そうした文章からは虚栄心ばかりが目について、文章の中に入っていけない。厚化粧の女性とは仲良くなった気がしない。
それから著者は福山出身で、山陽本線を担当していたこともあるようで、広島の路線のことや、散歩中に太田川の陸橋を渡る115系のことがしばしば言及されることも個人的に面白かった。電車通勤なら毎日楽しくなることうけあい。