今年の本2009

今年よく読んだ本、というか作家はフィリップ・K・ディックだった。職場の大先輩から『高い城の男』を薦められて読んで以来、小説はディックしか読んでいない。あ、ウェルズとクラークだけは少しずつ読んだけど。私はそもそも小説という形式の本をほとんど読まない。しかし今年はディックのおかげで小説をたくさん読むことができた。そして楽しかった。
初期のSFガジェット満載かつエンターテイニングな作品群は小気味よく、そのアイデアには驚くばかり。初心者にもお薦めしやすいだろう。後期は麻薬と形而上学がテーマになり、純文学志向が見られ、SFなのは表向きのみで中身は重たく、読みにくくなる。私は後期のものが、激しく読みにくいが、とても気に入った。『ヴァリス』はよく出版できたと思う。どれかの作品の訳者後書きで「ディックと村上春樹は心が疲れていたり病んでいたりする人には心地よい」という趣旨のことが書かれていた。余計なお世話だし私はハルキは好きじゃないのだ。しかしディックによって現実感がボロボロと崩壊していく様が描かれるとき、リアリティとか認識といったものが見事に相対化されていき、それによって私はがんじがらめの現実から遊離してなんだか自由になれる気がするのである。
アンドロイドは電気羊の夢を見るか? (ハヤカワ文庫 SF (229))流れよわが涙、と警官は言った (ハヤカワ文庫SF)ユービック (ハヤカワ文庫 SF 314)ヴァリス (創元推理文庫)