進化倫理学入門

2001年宇宙の旅』小説版第1部「原初の夜」では進化論の教科書になりそうな描写がある(もちろんモノリスに触って云々は除いて)。進化論はとってもインスパイヤリングな理論で、進化論を倫理学に応用しようとした例はスペンサーがボコボコに批判された後もずっと続いているのである。

進化倫理学入門 (光文社新書)

進化倫理学入門 (光文社新書)

愛や友情、良心といった道徳を利益という視点から進化論的に読み解いていく本。確かに道徳と利害は大いに関係にしているのであり「損得を考えて生きてはいけない」などとうそぶくモラリストは絶対倫理学研究者になってはならないし、僧侶や教師にはなれても哲学者にはなれないのである。
倫理学の立場から気になる点はただ一つ。進化論を倫理学に応用する場合、必ず「事実と価値の峻別」という壁を越えなければならない。いや、溶かすとかなくすとかでもいいけど。進化論は事実に関する記述ではあるが当為に関する記述ではない。そもそも進化論は倫理に関してニュートラルなのであるが、それを倫理学に応用するなら事実と当為をどう関係づけるかというメタ倫理的問題をクリアする必要がある。進化のメカニズムは本家の進化論に倣えばよいのだから、進化倫理学の核心はメタ倫理ということになる。で、そのへんの疑問に答える本ではなかった。著者は法学畑の人なので致し方なし。でも本文中で「メタ倫理」という言葉が出てくるもんだから期待してしまったではないか。
「入門」だから端折ったのかもしれない。次回作『進化倫理学中級編』に期待する。