ラースとその彼女

映画「ラースとその彼女」。人との触れ合いが苦手というか、コミュニケーション能力が低いというか、そんな人が主人公。ちゃんと仕事はしていて、引きこもりではない。ある日ネットでラブドール購入→兄夫婦に「彼女ができた」と紹介→兄夫婦仰天するも町の住民を巻き込んで主人公の妄想につきあう→主人公更生という話。なんでこうなっちゃったかに関して兄が胸の内を語るシーンだとか、「しんどいこともあるが、他人のために生きるのが大人」だとかいうセリフには泣いた。
内容としては、家族の価値を見直すというとても保守的な話なわけで、生殖につながらないラブドールを彼女と言い張る主人公はアンチキリスト。それを教会に集まる高齢者たちも含めて見守り、最後には主人公も生身の人間との触れ合いに目覚めるという話はちょっと出来すぎてはいる。仕事もせず兄夫婦との付き合いも断ち、重度の引きこもりでラブドールで毎晩遊んでる主人公なら(映画ではラブドールとは一緒にいるだけで「使用」はしていない設定)こうはならなかったはず。
アメリカの田舎町が舞台。暗い冬から春の雪解けまでを主人公の心の雪解けに合わせて描く演出はベタだが美しい。少々楽観的な話ではあるが「自己犠牲こそが自己の幸福」という倫理を静かに訴えてくれる。あ、あれ?まんまと伝統的な価値観にやられているじゃないか。