メチエ×2

善悪は実在するか アフォーダンスの倫理学 (講談社選書メチエ)

善悪は実在するか アフォーダンスの倫理学 (講談社選書メチエ)

進化論とアフォーダンス理論を道徳の実在論に応用しようという書。
その意図はよくわかる。出来事eventが入れ子式で、全体−部分の包含関係として捉えようとするなど、うなずける部分は多々ある。
しかし進化論にせよアフォーダンスにせよ、こうした科学的成果を倫理学に応用する際にあまりにも用心深さが感じられない。進化論は倫理学で使えると思うし、アフォーダンスも非常に面白いアイデアだと思う。でもアフォーダンスって「だから何?」で終わりそうな危うさを秘め続けているし、それにきちんと答えているとは言えないだろう。
従来の哲学が中心に置いてきた普遍性に対して、ケアの倫理をはじめとした個別具体性を尊重したいという主張もわかる。しかしこれも普遍−個別、抽象−具体の二項対立を前提にしたままだし、結局は視点の問題で、どのようなトピックについてはどのレベルで議論するのが有効なのかを議論するほうがよほど生産的ではないか。
最後は具体性を重視した思想家ということでサド侯爵の紹介。私はこれをオチとしか解釈できなかった。


合理的とはどういうことか (講談社選書メチエ)

合理的とはどういうことか (講談社選書メチエ)

こちらも道徳の実在論がテーマ。下敷きはグライス。感情の起源を進化論的に説明してくれる前半第1章、2章はわかりやすく説得力がある。後半3、4章は言語使用に重きが置かれてテーマが薄れた気がするが、合理性概念を大きく捉えようという主張は個人的に賛成。
ちなみにジダンのW杯頭突き事件が取り上げられており、サッカー好きなのかと勝手に親近感を感じていた。試しに巻末の索引を見てみると「自己決定」と「実在論」の項目に挟まれて「ジダン」が。お茶目すぎる。
あとがきで「誰にもわかるような本を」とあり、文章はですます調で書かれてはいるが内容はソフトではない。